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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

父と蜂蜜

牛島 美穂

 

 父は無類の甘い物好きだった。下戸の父はコップ一杯のビールで真っ赤になったが、大福なら一度に三個をペロリと平らげた。そのたび、「またゴルフクラブがお腹につかえるのう」と気にしていた。
 甘い物の中でとりわけ好きだったのが、蜂蜜だった。父がゴルフに行かない日曜の午後は、ホットケーキを焼いてコーヒーを淹れるのが、実家での習慣だった。父は焼き上がったホットケーキに蜂蜜をたっぷりかけると、歯並びのよい口を大きく開けて頬張っていた。
 自分でも「前世は熊だったかもしれん」というくらい、蜂蜜には目がなかった。ディズニーのアニメ映画「くまのプーさん」の中で、プーさんが無心に蜂蜜をなめるシーンは、父の姿と重なった。
 ある年、親交のある方から季節のご挨拶の品が届いた。包みをほどくと、四角い容器に入った蜂蜜が顔をのぞかせた。四角い蜂の巣の中に、黄金色の蜜がきらめいていた。
 コムハニーを見るのは、蜂蜜好きの父も初めてだった。箱を見つめる父の目は子どものように輝いていた。
 父はすぐさま容器を開け、蜜ろうごと黄金色の蜂蜜を味わい始めた。口に残る蜜ろうがやや気になったようだが、これにも抗菌作用などの効果があることを添えられていた栞で知ると、「蜂蜜っちゃほんまにすごい食べ物やのう」と感心しながら、さらに食べ進めていった。
 思えば、父の日のプレゼントの中で最も喜んでくれたのは、自宅近くの蜂蜜専門店で見つけた蜂蜜とバゲットのセットだった気がする。
 父が亡くなったのち、実家のそばにも蜂蜜専門店がオープンした。父が元気だったら連れ立って出かけたかったなと、店の前を通るたびに思ったものだ。
 SNSが普及し、手元でいろいろな生活道具を検索できるようになったある日、「ハニーディッパー」なるものを見つけた。誕生日か父の日に贈ったなら、生涯愛用してくれただろうなと思う。古希に届かず旅立った父と来世で再び親子になれたなら、一緒にもっと蜂蜜を堪能したいなと思う。
 もし幸運にも今回の懸賞で蜂蜜をいただけたなら、真っ先に父の写真の前に供えようと決めている。

 

(完)

 

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